卓越した企業というのはどのような企業であろうか?
この企業経営において永遠の命題とも言えるこの問題に挑んでいるのが、このビジョナリー・カンパニーシリーズといえよう。シリーズ1作目といえる「ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則」は、全世界で300万部、シリーズ2作目の「ビジョナリー・カンパニー 2 - 飛躍の法則」も全世界で400万部発行されているということだ。尚、余談ではあるが、原著の方では、厳密に1、2、3、4とナンバリングされているわけではない。もちろん文中の中では参照されている。
部数が多い本が良い本であるとは思わないが、それだけ広く読まれている本はやはり良書なのであろう。そのビジョナリー・カンパニーシリーズの4作目(現在における最新作)が「ビジョナリーカンパニー4 自分の意志で偉大になる」である。
本書の研究の対象は、所属業界の株価指数を少なくとも10倍以上上回る株価パフォーマンスを上げた企業、本性ではこれを「10X型企業」と呼び、これらの「10X型企業」がいかにして卓越した業績を築いたかの共通点を洗い出している。
今回の10X型企業の選別は、過去のビジョナリー・カンパニーシリーズの中で設定された「卓越した企業の基準」の中でも最も厳しいものであろう。
具体的に本書の中で設定されている、10X型企業の厳しいハードルを紹介しよう。
・ 15年以上にわたって株式市場平均や同業他社を凌駕したなどの高パフォーマンス企業
・ 置かれた環境が非常に厳しいにも関わらず実績をのこした企業
・ 偉大な企業に脱皮する前には、歴史の浅い中小企業であり、経営基盤が脆弱であった
つまり「非常に不安定な状況から高パフォーマンスを出し続けた企業」ということだ。
「ビジョナリーカンパニー4 自分の意志で偉大になる」の中では、まず、10X型リーダーシップと名付けられている、10X型企業におけるリーダーシップについて語られている。このリーダーシップは、「狂信的な規律」「実証的な創造力」「建設的なパラノイア」の3つの特徴があるという。
狂信的な規律:
一貫した価値観、一環した目標、一貫した評価基準、一貫した方法をはじめとした、徹底した「行動の一貫性」を示す。サウスウェストの名物社長である、ハーブ・ケレハーのように企業文化形成のために、非常に奇抜な行動を取り続ける例が紹介されている。ここでは、奇抜な行動を取るのではなく、撮り続けるということ、行動の一貫性が重要である。
実証的な想像力:
不確実な状況に直面するときに、他人や社会通念、権威筋などを見て手がかりを探ることはない。科学的に実証できる根拠を頼りにする。自ら観察し、実験を重ね、具体的な事実と向き合う。
建設的なパラノイア:
マイクロソフトのビル・ゲイツの例が記載されている。ビル・ゲイツは1994年に「常に恐怖を感じて経営すべきだ。ただし、恐怖を表に出してはならない。個人的にはいつも失敗した場合のことを考えている」と述べたそうだ。当時、マイクロソフトはWindows 3.1で世界市場でデファクトスタンダート地位を固めていたのにである。
皆さんには備わっているだろうか?
この他にも、「ビジョナリーカンパニー4 自分の意志で偉大になる」では、「20マイル行進」と言われる、長期間に渡ってある一定の成果を出し続ける企業文化、企業管理指針の重要性が語られている。
また、「銃撃に続いて大砲発射」という考え方も紹介されている。これは、銃撃=低コスト、低リスク、低ディストラクション(企業としての集中力が散漫らないという意味)の実証的テストを数多く行い、当たったものに対して、大砲を撃ちこめ、という考え方だ。つまり、成功するかどうかは誰もわからないのでまずは小さく試してみるということの重要性を述べている。大きく賭けて一気に創造的に飛躍するという企業成長ストーリーは神話にしか過ぎないと断じている。
この他にも様々な共通点が洗い出されている。
最後には、非常に運についての考察もある。「運の利益率」と題された章で、飛躍できなかった企業も幸運が訪れていることが述べられている。運は良い悪いにかかわらず訪れるため、むしろ、運をどのように運用するかが重要なのである。
この「ビジョナリーカンパニー4 自分の意志で偉大になる」は、卓越した企業を作りたい人、そしてリーダーになりたい方には最高の名著といえるだろう。
かなり分厚い本であり、多くのエッセンスが詰まっている。非常におすすめのビジネス戦略本といえる。
■ 発売日
2011年にアメリカで発売された。原著のタイトルは、「Great by Choice: Uncertainty, Chaos, and Luck--Why Some Thrive Despite Them All」であり、訳せば「選択によって偉大になる、不確実性、カオス、運、いくつかの企業はその他の企業がそうでなかったにもかかわらず、繁栄する」ということになる。
著者は、ジム・コリンズとその教え子である、モートン・ハンセン(カルフォルニア大学教授)である。
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