経営戦略の本は数多くあるが、時代が変わっても読み継がれている「古典」には理由がある。小手先のフレームワークではなく、企業がなぜ勝ち、なぜ衰退するのかという本質を扱っているからである。本ページでは、経営戦略を学ぶうえで避けて通れない古典的ベストセラーを10冊厳選した。いずれも、コンサルタント・経営者・ビジネスパーソンが「一度は読むべき」と評価し続けている名著である。
戦略の全体像を掴みたい人、流行理論に振り回されたくない人に向けた保存版リストである。
経営戦略は「ポジショニング派」と「ケイパビリティ派」の2つに分かれる
経営戦略の議論は一見すると多様に見えるが、突き詰めると考え方は大きく二つに集約される。一つは外部的要因を重視し「どの市場で、どの立ち位置を取るか」を重視するポジショニング派である。もう一つは「企業の固有の能力」を重視するケイパビリティ派である。
ポジショニング派は、業界構造や競争環境を分析し、有利なポジションを選ぶことで競争優位を築こうとする。一方、ケイパビリティ派は、他社には容易に真似できない組織能力や学習の蓄積こそが、長期的な競争力の源泉になると考える。
では、どちらの戦略思想がより現実的で、再現性が高いのか。
経営戦略はケイパビリティ派がポジショニング派に勝利した
コダックと富士フィルムという会社がある。両方ともカメラのフィルムで世界的に非常に強いポジションを確立したが、その後、コダックは苦境に陥り、富士フィルムはイノベーションを起こし続けている。ケイパビリティ派は、ポジショニング派に対して、「同じ環境におかれた企業が多数あるのに、成功と失敗に分かれるのはなぜか?」という疑問を投げかけている。
つまり、成功と失敗の違いは、企業の持つ経営資源の差にあるのではないか?と主張だ。
企業の業績が何によって決まるのかについては、経営戦略論の中で長年にわたり研究が重ねられてきた。実証研究では、企業業績の約15%は業界ごとに異なる要素、たとえば業界構造や規制環境といった外部要因によって説明される一方、約45%は特定の企業や事業に固有の要素によって決定されることが示されている1。
そして、市場環境や競争条件は外部要因によって容易に変化するため、特定のポジションは長く維持できない。一方で、組織に蓄積された能力や文化、意思決定の質は、時間をかけて強化され、環境変化に適応する力となる。現代の経営戦略が「何を選ぶか」から「何を育てるか」へと重心を移してきた理由も、ここにある。
経営戦略においてポジショニング派は無意味なのか?
実は、そんなこともない。15%はポジショニング派によって決まる。つまり、ケイパビリティ派の1/3の打撃性がある。
もっと重要なのは、ポジショニング派の15%とケイパビリティ派の45%を足しても約60%しかならず、残りの40%は、不確実性への対応ということになっているようだ。つまり、経営戦略というのは答えがない領域ともいえる。
経営戦略を理解するはじめの1冊
経営戦略全史
著者:三谷 宏治 / 初版発行日:2013年
本書は、経営戦略論の誕生から現代に至るまでの流れを体系的に整理した一冊である。
ポジショニング派と、ケイパビリティ派について、時代背景とともにわかりやすく解説している点が特徴だ。個別理論の紹介にとどまらず、「なぜその戦略が生まれ、なぜ限界を迎えたのか」という因果関係を丁寧に追っているため、戦略論を断片的知識ではなく一本の歴史として理解できる。
経営戦略を初めて学ぶ人から、理論の全体像を再確認したい実務家まで、幅広く有用な古典的入門書である。
ケイパビリティ派 6冊
ケイパビリティ派の古典 5冊
エクセレント・カンパニー / すごい企業の8つの特徴
著者:トム・ピーターズ、ロバート・ウォーターマン / 初版発行年:1982年
原著:In Search of Excellence
優れれた企業を研究し、その共通項には何があるか?というテーマでベストセラーになった古典的ビジネス書、経営書。世界的で最も著名な戦略コンサルティング会社マッキンゼーのコンサルタントであったトム・ピーターズ氏とロバート・ウォーターマン氏によって執筆され、世界的なベストセラーになったビジネス書である。
この本によると8つの共通点が解き明かされている。詳しくは書評「エクセレント・カンパニー すごい企業の共通点とは何か?」を参考にしてほしい。
プロフィットゾーン経営戦略 / 儲かるビジネスとは
著者:エイドリアン・J. スライウォツキー、デイビッド・J.モリソン / 初版発行年:1997年
原題:The Profit Zone: How Strategic Business Design Will Lead You to Tomorrow's Profits
数々の利益が出るビジネスモデルを研究し、各モデルごとに構造化し、事例共に解説したのがこの「プロフィット・ゾーン経営戦略」である。ビジネスモデル研究の古典的なビジネス書である。22の構造化された儲かるビジネスモデルが紹介されており、長期的に「利益を生み出す」という視点で見ると今もなお役に立つ経営書と言えよう。
イノベーションのジレンマ / 破壊的イノベーションとは
著者:クレイトン・クリステンセン / 初版発行年:1997年
原題:The Innovator's Dilemma
優良な企業が、既存の商品に対して、持続的イノベーションを継続的に行っていても、全く別の軸からその顧客にとって代替となりコスト的にも安い「破壊的イノベーション」が起こった場合にそれに対して無力である。その一方で、優良な企業は、優良であるからゆえ、持続的なイノベーションを行ってしまい、破壊的イノベーションに対応することに遅れてしまうというのが、イノベーションのジレンマである。
これは非常に衝撃である。企業というのは組織だって「反復した改善して、精度を高めていく」という性質がある。そして、これが優良な企業ほど効果的&効率的に回っている。しかし、その優良であることが原因となって、イノベーションを起こる土壌をそいでしまうのだ。詳しくは書評「なぜ優良企業がこそが衰退するのか? - イノベーションのジレンマ」を参考にしてほしい。
8冊目:ビジョナリー・カンパニー 2 / 第五水準のリーダーとは
著者:ジム・コリンズ / 初版発行年:2001年
原題:Good to Great: Why Some Companies Make the Leap...And Others Don't
「良好(グッド)は偉大(グレート)の敵である」この言葉から始まる「ビジョナリー・カンパニー 2 – 飛躍の法則」。
この本は、この言葉どおりに良好な会社と偉大な会社の差は何があったのか(つまり、偉大な会社になるためにはどうすれば良いのか)というテーマで、膨大なリサーチを元に書かれた経営戦略ビジネス書である。
「個人としての謙虚と職業人としての意思の強さという矛盾した性格の組み合わせによって偉大さを持続できる企業を作り上げる」とした第五水準のリーダーシップを始めとして、様々な成功企業の共通の条件を解き明かしている。
詳しい書評は「驚きの真実:偉大な企業になるためには? – ビジョナリー・カンパニー 2 飛躍の法則」を参考にしてほしい。
このビジョナリー・カンパニー 2も、あまりにもベストセラーな経営書といえるだろう。是非読んでおきたい。
ケイパビリティ派の新古典
10冊目.リーンスタートアップ / 構築 – 計測 – 学習 でイノベーションを起こせ
著者:エリック・リース / 初版発行日:2011年
原題:The Lean Startup: How Today's Entrepreneurs Use Continuous Innovation to Create Radically Successful Businesses
ずばり経営戦略書という本でもないが、今、最も企業に必要だとされるイノベーションを起こすにあたって、どのようにイノベーションをマネジメントしていけば良いのかを教えてくれるのが、このリーンスタートアップだ。
「構築―計測―学習というフィードバックループを通して顧客から学ぶ」を提唱するこの本は、何もシリコンバレースタイルのベンチャー企業だけのものではない。
新しい考え方を試してみるというすべての人々が使えるやり方だ。2011年の発売以来(原著の発売であるが)、大ベストセラーのマネジメント手法が学べる経営書である。
ポジショニング派 2冊
ポジショニング派の古典
〔エッセンシャル版〕マイケル・ポーターの競争戦略 / ファイブフォース分析とはなにか?バリューチェーンとはなにか?
この本は、ポジショニング派の教祖ともいえるマイケル・ポーター氏の以下の難易度が高い古典を分かりやすくまとめたものである。
競争の戦略
著者:マイケル・ポーター / 初版発行年:1980年
原題:Competitive Strategy
競争優位の戦略
著者:マイケル・ポーター / 初版発行年:1985年
原題:Competitive Advantage
とにかく、経営戦略について興味がある人なら、マイケル・ポーター氏に関して興味がないということはないだろう。
ハーバード・ビジネス・スクールの教授であるマイケル・ポーター氏は、数多くの経営分析フレームワークを提唱したが、その中でも特に有名なのは著書「競争の戦略」で提唱した「ファイブフォース分析」と著書「競争優位の戦略」で提唱した「バリューチェーン」であろう。
「ファイブフォース分析」は、企業における外部環境を分析しその競争力を判断するための分析方法だ。その内容は5つの競争要因
・ 競合している企業同士の敵対関係
・ 新規参入の脅威
・ 代替品の脅威
・ 顧客の交渉力
・ 供給者の支配力
という視点に基づき分析を行う。
「競争優位の戦略」で提唱した、バリューチェーンというフレームワークは、原材料の購買からさまざまなステージでバリュー(付加価値)を加えていくということが企業活動であり、それが関連していることからバリュー(価値)+チェーン(連鎖していく)という名称を与えられている。
そして、このバリューを加えていくプロセスにおいて効率を上げることで競合他社との差別化を測ることができる。
尚、著者は、マイケル・ポーター氏ではなく、ジョアン・アグレッタ氏。氏は、ハーバード・ビジネス・スクール競争戦略研究所の上級研究員である。マイケル・ポーター氏は、ハーバード・ビジネス・スクールの教授である。
進化したポジショニング派(新しい古典)
進化版. ブルーオーシャン戦略 / 競争のない市場を開拓せよ
著者:W・チャン・キム、レネ・モボルニュ / 初版発行年:2005年
原題:Blue Ocean Strategy: How to Create Uncontested Market Space and Make Competition Irrelevant
この「ブルー・オーシャン戦略」の最大の特徴は、市場を2つにわけていることだろう。血みどろの戦いが繰り広げられる「レッドオーシャン」と誰もがまだ到達していない未開拓の市場「ブルーオーシャン」。
レッドオーシャンで戦う危険性と、ブルーオーシャン市場でを開拓する優位性。企業戦略において、創造性の重要性を教えてくれる経営書だ。
尚、経営学者という観点から良書を知りたい場合は「6人の経営学者を知れば、経営戦略書は語れる?」が参考になる。